What is Hichirippu Project?
火散布沼
火散布沼は北海道東部,北海道厚岸郡浜中町に位置する面積3.58km^2の太平洋に面している海跡湖である.集水面積は20.64km^2と小さく,淡水供給量が少ない.
沼全体が浅く湖岸が入り組んでいること,海水が直接出入りするため,沼奥以外は冬季でも凍ることはないこと,小さなクリークを除いて流入河川を持たないことなどが特徴としてあげられ,他に類を見ない特異な汽水域となっている.
霧多布湿原,藻散布湖と並んでラムサール条約に登録されており,野生生物が多数生息し,絶滅危惧種であるタンチョウや天然記念物のシマフクロウなどがみられる.
このような良好な自然環境がある火散布沼は漁業活動や生態系保全の場としても重要な汽水域である.
大雨による養殖場のウニへのダメージ
散布漁業協同組合ウニ養殖部会によれば,火散布沼ではカキ・アサリ漁業以外はほとんど利用されていなかった.
しかし,火散布沼ではウニが思った以上に早く成長すること,火散布沼が静穏域であり波浪の影響を受けづらいため,管理が外海に比べて比較にならないほど容易であること,火散布沼内の各所および外海には,利用価値がほとんどないコンブが大量にあるため飼料が豊富であることから,出荷までの養殖も可能だと考えられた.
そして,火散布沼は河川からの流入が少なく,水温・塩分は外海と同様 な環境であることから,ウニの育成には問題ないことがわかったため,火散布沼を利用してウニ養殖の企業化に取り組んでいた.
このようにウニの養殖漁業が盛んに行われていたが,2013年9月に台風13号が火散布沼を襲った.このとき,湾内で養殖されていたウニが大量に死滅し,大きな損害が出ることとなった.
この原因として,台風による大雨の影響が考えられる.大雨により,火散布沼内に大量の淡水が流れこみ,淡水と汽水が混合されて薄まることで塩分が下がったと考えられる.
栽培漁場総合センターの西浜によると,エゾバフンウニは塩分10%を下回ると極めて短時間のうちに斃死に至るとある.
このことから,ウニ養殖場付近の塩分が下がったためウニが斃死したのではないかということが考えられる.
このように火散布沼は,台風の大雨による低塩分化によって養殖漁業への被害が出ている.
塩分シミュレーション
これらの中でも赤潮や貧酸素水塊に関する研究は多くなされてきているが,塩分に関する研究はあまり行われてこなかった.
しかし,実際には汽水域である火散布沼のウニの大量斃死にみられるように低塩分化による養殖漁業への被害も発生しており,こういった被害を未然に防ぐために汽水域内の塩分を予測できるモデルが必要である.
当研究室では,ボックスモデルという手法を用い、計算方法を簡略化しリアルタイムで塩分を予測できる手法を開発している。また、神戸大学 中田聡志先生と共同して数値モデルを研究している。実地調査は漁業組合、および浜中町と共同で実施している。
この北海道東部の火散布においてウニの養殖場は極めて重要な産業に成りつつある。我々の技術で安定的なウニの生産につなげたい。